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Interview
Michihiro Ueno


上野道弘 岡崎正人 小瀧達郎 小松義夫 杉浦厚 世利之 田所美惠子 田中長徳 那須則子 堀野浩司


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Q. ピンホールカメラとの出会い、またパノラマ撮影をはじめたきっかけを教えてください。

A. 横浜・伊勢佐木町近くに吉田町という比較的画廊が多い区画があります。あるとき、そこで営業していた喫茶店で地元の方達の写真展を観ました。それはとても不思議な表現の写真で思わず見入ってしまいました。シャープではなくピントすら入っていない。しかしなぜか引き込まれる。作品に添えられていたキャプションに「針穴写真」とあったので、その足で本屋さんに向かい田所美恵子さん著作の入門書を購入しました。それがピンホールに触れるきっかけとなりました。
ピンホールの仲間たちと交流するうちに、びっくりしたことがあります。皆さんフォーマットに縛られないのです。ピンホールカメラは簡単な構造なので自作する方が多いのですが、「この缶が使いたいから」という理由で平気でフィルムをカットして使う、縦横比率なんて関係ない。とても自由なのです。ピンホールは焦点を結ぶということもあまり考えませんので、フィルムの平面性からも自由になります。
非常に横長のカメラ、HOLGAを切断してアルミアングルで補強して、パノラマカメラを作ってくる方がいらっしゃって、仲間内で流行りだしました。当然ながら周辺光量が落ちるため、フィルムを湾曲させる方もいれば、撮影時に中央を手で覆って周辺露光量を稼ぐ方もいました。各々自分の好みに合わせて自作、工夫して撮影していました。私自身は、その時はあまりパノラマには魅力を感じていませんでしたが、ほどなくしてA-Power社がHOLGAのピンホールパノラマカメラを販売開始したので、全くの興味本位で購入しました。それが欠陥を抱えた「可愛いやつ」で、周りが見事に大きくケラレるのです。購入直後に改造から始めないといけない。そのカメラでテスト撮影を繰り返すうちに楽しくなってきて、それ以来、前後してでてきた出版物の付録カメラなどをパノラマ化したりしています。

Q. 出展された作品は不思議な写真に仕上がっていますがどのように撮影されたのですか?また使用した自作ピンホールカメラについて教えてください。

A. このカメラのオリジナルは、ピンホールブレンダーというカメラで、クッキー缶みたいなカメラにピンホールが三つ付いています。フィルムは缶の中央に円筒に巻き付けられていて、そこに三方から露光します。三方向からだけでなく巻き上げれば長い作品も作れます。その名の通り映像がブレンドされることを目的とされるカメラですが、うまく繋げるとパノラマ的になります。ディズニーのクッキー缶にフィルム模様のものを見つけてしまいメジャーを当てると(ピンホール写真家はお菓子屋さんにメジャーを持っていくのです)ちょうどブローニーフィルムが入る。即購入してピンホールブレンダーに近いものを自作しました。
三方向から露光するため、カメラそのままの位置で全てを露光すると前後が逆転します。そのため逆転しないようにカメラの方向を調整して撮影しました。横浜赤レンガ倉庫前に公園があり、そこに気持ちの良い一本の大きな木があるのですが、その木を上から下まで撮りたくてこのカメラを使いました。

Q. ピンホールカメラ、またパノラマ写真の魅力について教えてください。

A. ピンホールを始める前の私は、写真を撮っても現像したネガを見ると「あれ?自分はここに行ったっけ?」と思うぐらいに撮影対象とのズレを大きく感じていました。もともとが機械好きなのもあって、単純にシャッターを切ることが楽しかったというのも一因だったと思います。そのことを直せないかと思ってピンホールを始めました。実際にピンホールで撮影してみると、「撮りたい対象に素直に向き合う」という、基本中の基本に立ち帰ることができました。ピンホール写真は非常にストレートなのです。独特の柔らかなトーンも魅力ですが、私はどちらかというと撮影プロセスが好きです。そのような理由で、ピンホールでの撮影を続けています。
パノラマの魅力ですが、その場でしっかり周りを見て、その場の呼吸を感じなければいけません。これは写真を撮るときの基本ですが、見事におろそかにしています。パノラマで撮る時は特に「自分のいる場」を意識します−というよりも意識させられます。ピンホールカメラは非常に広角のカメラが多いのですが、それ以上にパノラマでは全てが写りこみます。今まで以上に広い視野を包括できる自分自身が必要なのだと感じます。
実は今回の展示を機にパノラマカメラ(レンズ付き!)を購入してしまいました。とても楽しみです。

Q. 暗室作業でのこだわりはありますか?

A. こだわり、というのは特にありませんが、自分のイメージをきちんと表現できるように撮影すること、そしてそれをプリントまでしっかりと落とし込めればと思っています。以前、暗室兼ギャラリーをお借りしていていたのですが、ワイワイと楽しく、しかしはっきりとお互いに感想を言い合うので、非常に勉強になりました。作品の中をどこに向かって、どう歩くのか、立ち止まるのか。今現在はその暗室は閉店してしまったため、自宅で一人プリントをしていますが、できるだけニュートラルに、さまざま方向からの視線を頭の中に残しておくようにしています。

Q. 最後に、本作品の見どころを教えてください。

A. 前述したように、すっと立っている、気持ちの良い大きな木です。赤レンガ倉庫に向かう時にいつも出会うのですが、一体いつから立っていたのでしょう、大きさからして公園化される前からなのでしょうか。晴れの日も、雨の日も、雪の日も、いつもそこに立っています。新芽を吹き、葉が繁って木陰を作り、やがて紅葉したのちに落葉していきます。そんな一本の木の尊厳に敬意と親しみを込めて撮影しました。


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         上野道弘 Michihiro Ueno

         1969年生まれ。日本針穴写真協会会員。主に同協会会員展などに出展。


文責・編集 gallery bauhaus
鈴木拓也             



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