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Interview
Tatsuo Kotaki


上野道弘 岡崎正人 小瀧達郎 小松義夫 杉浦厚 世利之 田所美惠子 田中長徳 那須則子 堀野浩司


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Q. 小瀧さんは今回はじめてパノラマカメラを使って作品制作をされたとのことですが、パノラマカメラを使用したきっかけを教えてください。

A. パノラマ写真は大好きなヨゼフ・スデクの作品などで知ってはいましたが、今回のパノラマ展のきっかけは、昨年写真集にもなった田中長徳さんのヨーロッパのパノラマ作品です。ヨーロッパの都市構造も関係するかもしれませんが、いままで自分が見ていた風景を覆すようなパノラマカメラ特有のパースペクティブはちょっと目からウロコでした。ちょうどコロナ禍で海外取材は行けないし、これで日本を撮ったらどうなるだろうというのがきっかけです。

Q. いつもの撮影との違いはありましたか?またパノラマ写真の魅力を教えてください。

A. 自分が生まれ育った日本を撮るというのは長年の懸案でしたが、切り口が見つけられずに時が過ぎていきました。前にも言いましたがパノラマカメラの視覚は人間の視野と異次元のものです。そこには自分のちっぽけな感情やこだわり、イメージなどが入り込めない独特の世界感があります。
決まりきったフレーミングから脱したいー写真家として同様の思いをされている人はいるのではないでしょうか。パノラマカメラの魅力は、自分のイメージで自然をも屈服させられるかのような人間の想いあがりを一蹴してくれるところにあると思います。

Q. 今回、撮影地はどのように決めましたか?

A. 撮影はまず自分の身近にある御茶ノ水界隈からはじめました。聖橋やニコライ堂など以前から面白いと思っていた場所がありましたが、ライカで撮ってもいまひとつ満足できる写真が撮れませんでした。パノラマカメラに持ち替えたことで、この難題をクリアした気がしました。その後はパノラミックな風景を探して北海道など日本各地を旅しました。まだまだ撮りたい場所はたくさんあるので、これからも楽しみです。

Q. カメラは何をお使いですか?

A. カメラはロシア製のホリゾントと日本製のWIDELUX F8を使いました。
ホリゾントは完動品がほとんどなくe-bayで中古を3台買いましたが、当初修理ができる人も見つからず苦労しました。デジタルカメラのように安易に写真が撮れるわけではなく、古い機材なので操作も細心の注意が必要です。シャッターを押す際は指を滑らかに垂直に一気に下す。巻き上げもあわてずにゆっくり丁寧にします。それでも1本のフィルムの中に何コマか光線もれやコマ間がだぶっていたりすることがありました。しかしデジタルカメラと対極にあるような古いカメラで丁寧に写真を撮るというのは不思議な感覚で、そこで生まれる写真も一味違ったものになるというのが新しい発見でした。
WIDELUXは未使用品が手に入って、使用感は申し分なかったのですが撮れる写真がどうにも生真面目すぎて、結局今回展示した写真はすべてホリゾントで撮ったものになりました。

Q. 暗室作業でのこだわりはありますか?印画紙は何をお使いですか?

A. プリント作業はいつもと同じで調子が出るまでが大変です。展覧会とテーマごとに仕上げが変わるので、そこにたどり着くまでに時間がかかります。印画紙や現像液の選択ー今回はいくつかテストした結果foma133という初めての印画紙を使用しました。コロナの影響もあってアメリカやドイツの店の在庫がなく、チェコ在住の写真家に頼んで送ってもらいました。温黒調のマット系印画紙の選択肢が少ない中で、この紙は今後も使えるアイテムになりました。

Q. 最後に、本作品の見どころを教えてください。

A. いままで主にヨーロッパをテーマにした写真を撮ってきましたが、パノラマカメラとの出会いで、ようやく日本での撮影の道が見えてきました。世界的なコロナ騒ぎは既存の社会構造や価値観を覆すような出来事ですが、ぼくはこの騒ぎのおかげで長年の課題でもあった「日本を撮る」ことを始められました。
目に見えないコロナウイルスという災厄で心を病んでしまっている人もいるようですが、こんな時こそ自分を見つめなおす良い機会だと思っています。ぼくは改めて自分のそばに「写真」という装置があったことに感謝しています。しばらく海外取材は出来そうもありませんが、パノラマカメラでの日本取材はしばらく続けるつもりです。日本を題材にした写真は販売しにくい一面もありますが、部屋にかけて楽しんでもらえるような作品作りに励みたいと思っています。


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小瀧達郎 Tatsuo Kotaki

東京造形大学で石元泰博、東松照明、大辻清司、高梨豊氏等から写真を学ぶ。 卒業後、フリーランスの写真家としてフランス、イギリス、イタリアなどヨーロッパを中心に撮影。
2006年gallery bauhausを設立。モノクロームで作品を撮り続けている。

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北海道でパノラマ写真撮影中の小瀧達郎
Photo Yuko Kotaki


文責・編集 gallery bauhaus
鈴木拓也             



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